1.前書き
今回は、「ヘラウキが受ける水の抵抗について」、解説を行っていきたい。
前回までの実験において、ヘラウキが受ける水の抵抗が、ウキの立ち上がりや戻りに大きな影響を及ぼすことがわかった。今月から数回にわたり、「水の抵抗」、特に「表面張力」に焦点をあてて解説を行っていきたい。
「パーツの種類と比重」を前提とし、第2回「足の素材と長さの違いによる影響」、第3回「トップの長さの違いによる影響について」において実験を行ってきた。
これら各回における実験では、ヘラウキの動きや立ち上がりには、水の抵抗、特に表面張力が大きく影響をしているということとがおわかりかいただいたと思う。
2.表面張力
以下の画像をご覧いただきたい。
カーボンは、比重が水より重いので、水に沈むはずである。ところが水に浮いている。これが、表面張力である。
この表面張力は、ヘラウキの立ち上がりに大きな影響を及ぼす。立ちが悪いウキの場合、竿をひいてやるのは、この表面張力を解放するためである。
また、浅ダナ釣りでオモリ負荷量がごく僅かのウキを使う場合、振込みとともに、ミチイトを沈める動作を行う。これは、風流れの影響を避けるだけでなく、ミチイトを沈めることにより、少しでも表面張力を解消しようとするためである。
以下の画像をご覧いただきたい。
空気中でのバラウンス
立ち上がり時のバランス
上記写真からわかるように、空気中でとったバランスと実際のウキの立ち上がり時のバランスは、異なることがお判りいただけると思う。
立ち上がり時のバランスのほうが、トップ側に移動している。
この差の主たる要因が表面張力である。
上記図の60gが、表面張力とトップの重さ等との合算値というイメージになる。
表面張力の違いは、
@トップの太さ:太いほど、表面張力は強くなる。→トップにテーパーがついているのは、表面張力を軽減するのが、主たる目的である。
Aトップの材質:柔らかい材質ほど、影響を受けやすい。ムクトップのロングウキにPCムクが向かない理由は、素材のもつ柔らかさからである。
Bトップの表面仕上げ:当然表面の塗りにデコボコが多いものは、影響を受けやすくなる。
Cトップの重さ:これは、表面張力とは言えないかもしれないが、トップの重さが重いトップほど、立ち上がりが遅くなる。→BとCの理由から、トップの塗りは、できるだけ薄く軽くすることが必要である。
3.ショックに対する水の3つの抵抗
ヘラウキがあるショックによって動こうとすると、ヘラウキに対して働いている水圧が、以下の3つの異なった抵抗に変化して、ヘラウキに作用する。
@反力抵抗=ヘラウキが下動しようとする面(主にボディ足側の絞り面)対して、下動させまいとして働く反力抵抗
A摩擦抵抗=ヘラウキの下動を引きとめようとして、側面全体に働く水の粘性による摩擦抵抗
B引張抵抗=反力抵抗の反対側に物体を離すまいとして働く引張抵抗
引張抵抗は、船が進むとき、船の後ろに生じる渦などがそれで、形状によっては、かなりのブレーキになる。ヘラウキでは、一昔前にカッツケ釣りで多用されたトンカチウキ(頭側の絞りがないヘラウキ)がこれにあたる。
これは、その引張抵抗が強いことから、余計なアタリが消され、トンカチで叩いたようなアタリがでることからついた名前である。
4.2枚合わせと1本取りの違いについて
ヘラブナの微弱なアタリ、エサの溶解過程を明示するために、ヘラウキの形態は、細く長いものとなっている。これは、同容積であれば、反力抵抗を受けにくいように、容積をタテにとるほうが、感度が良くなるからである。
よく釣り人同士の間で、「1本取りと2枚合わせでは、どちらが優れているのか」という議論が交わされているのを耳にする。
議論の内容は、「1本取りのほうが、張り合わせる分が少ないことから、接着剤を使用する量が少なく、動きが自然になる。また、接着剤を使用する量が少ないことから、オモリをよく背負う。」、「2枚合わせは羽根の良い部分を使用しているので、1本取りよりもオモリをよく背負う。また、センターが出しやすい。」というものだ。
結論から先に言うと、私は上記の論点でいくつかの点は正しいが、いくつかの点は「ウキ製作者により、異なる。」と考えている。
具体的考察は次のとおり。
オモリ負荷量は、ウキの体積−ウキの自重=オモリ負荷量で表わされる。
従って、オモリ負荷量は体積と自重の関係であり、エサの重さを支える力はこれまでの実験からおわかりのとおり、トップの体積、つまり太さ(径)と長さである。
ボディの体積で言えば、同じ径で仮定すると、図5(後日アップいたします。)からわかるとおり、2枚合わせのほうが多い。
もうひとつの要因である自重は、まさにウキ製作者の技法・技量により大きく異なる。
同じ1本取りでも、上下のみを加工する技法と一旦2つに割り、2枚合わせのように加工し、再度接着するという技法がある。当然、使用する接着剤の量は同じ1本取りといっても後者のほうが多くなる。従って、自重も後者の方が重くなり、オモリ負荷量は減少する。
あくまで「尽心作 匠」に限って言えば、2枚合わせのほうが、1本取りよりもオモリ負荷量は多い。
もうひとつの論点、センター出しに限って言えば、断然2枚合わせのほうが、センターを出しやすい。これは、1本取りは羽根の表と裏(筋が通っているほう)を貼り合わせるが、羽根の表と裏では羽根の硬度が違うため、真ん中に割りを入れたつもりでも、必ずしもセンターがでるとは限らない。また、羽根は自然素材であることから、1本1本硬度が違う。このあたりも、ヘラウキ作りにはアドリブが必要と言われる点である。
5.ウキの自重について
「尽心作 匠」が、接着剤をほとんど使わず、塗りを薄く軽く仕上げるのは、ウキをできるだけ軽く仕上げたいからである。
従って、同じオモリ負荷量を得ようとすれば、ウキの径を細くして、ウキを軽く仕上げるほうが、水の抵抗を受けず、感度のよいウキができると考えている。
しかしながら、感度がよいヘラウキとヘラ師が求める「明確なツンを表現するウキ」は異なるとも考えている。
ヘラ師が求める「明確なツンを表現するウキ」は、余計なサワリやジャミアタリといった雑音を一定消し、明確なアタリのみを表現するウキではないだろうか。
ヘラ師が求める「明確なツンを表現するウキ」は、ウキの形状やトップの材質、トップの径を組み合わせることにより、意図的に製作することは可能である。
しかしながら、「厳寒期向けの僅かなサワリを表現し、かつ一定のオモリ負荷量をもつヘラウキ」は、抵抗が少ない径の細いウキで、かつ軽く仕上げたウキでない限り不可能である。
つまり、余計なアタリやサワリを消すことは、意図的に製作することが可能であるが、一定のオモリ負荷量をもつ感度の高いウキを作るには、技術が必要である。
次回は、「水の抵抗面から見たエサ落ち目盛りの変化」について、解説したい。
以上
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