1.前書き
今回は、ヘラウキの立ち上がりに大きく影響する「ウキ止め方法」について、実験を交えながら解説を行っていきたい。
同じウキを使っても、ウキ止め方法の処理の仕方がウキの立ち上がりに大きく影響する。特に浅ダナ釣りにおいては、「軽い」「小さい」が重視され、極力「ウキの動きを妨げない」ということに重きが置かれている。
反面、底釣りの場合には、あまり軽いストッパーを使うと、合わせの際の力でストッパーがずれてしまうという現象が発生し、かえってウキの立ち上がりに「ぎこちなさ」を与えてしまう。具体的には、オモリ側のストッパーがずれると、ウキが立ち上がってから、ウキが「のしのし」と前身してくるような現象がみられる。道糸の号数にあったストッパーを使用することはもちろんのことであるが、やはり大きなウキを使用する場合には、ウキの大きさに見合ったストッパーが必要となる。
2.ウキ止め方法の種類
代表的なウキ止め方法の種類には、下記のようなものがあると考えている。
@画像1:ストッパーとウキ止めゴムの組み合わせ
A画像2:ストッパーとウレタンチューブの組み合わせ
B画像3:松葉式のNo.1、ウキ止め糸2箇所止めと松葉+ウレタンチューブの組み合わせ
C画像4:松葉式のNo.2、ウキ止め糸1箇所止め+ウレタンチューブの組み合わせ
である。その他にも様々な方法があるかと思うが、上記4方式で比較検証を行った。
3.ウキの立ち上がりの違い
画像5を見て欲しい。
使用したウキは、「尽心作 匠」Type-D2 浅ダナ用PCムクのウキである。具体的仕様は以下のとおりである。
ボディ:孔雀の羽根、塗装前の状態で5.3mm径、40mm 2枚合わせ
足:カーボン製 塗装前の状態で、最大径1.2mm、最小径0.8mmにテーパー付け 70mm
トップ:PCムク製 最大径1.0mm、最小径0.6mmにテーパー付け 90mm
このウキを使って、上記の4方式による、ウキの立ち上がりを検証してみる。
@画像1:ストッパーとウキ止めゴムの組み合わせ
ストッパーとウキ止めゴムを使用した際のオモリ負荷量は、0.53gとなった。
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A画像2:ストッパーと松葉式+ウレタンチューブの組み合わせ
ストッパーとウレタンチューブを使用した際のオモリ負荷量は、0.46gとなった
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B画像3:松葉式1、ウキ止め糸2点止めと松葉+ウレタンチューブの組み合わせ
ウキ止め糸2箇所止めと松葉+ウレタンチューブを使用した際のオモリ負荷量は、0.44gとなった。
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C画像4:松葉式2、ウキ止め糸1点止め+ウレタンチューブの組み合わせ
ウキ止め糸1箇所止めと松葉+ウレタンチューブを使用した際のオモリ負荷量は、0.43gとなった。
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4.比較検証による考察
ウキの立ち上がりの早さでは、C→B→A→@となった。
@とAのウレタンゴム製のストッパーは、確実性、耐久性、ずれにくいという点においては、最も信頼性の高い方法である。しかしながら、その耐久性重視のため頑丈に作られていることが、ウキの立ち上がりの際、抵抗になってしまうものと思われる。
@とAの違いは、ウレタン製のウキゴムとウレタン製のチューブの違いである。ウキゴムは下部に糸を通す輪をつけていることから、これが特に表面張力の影響を受けていると思われる。チューブは下部に糸を通す輪がない分だけ軽く、表面張力の影響を受けにくいと思われる。この実験から、底釣りやチョーチン釣りにおいても、ウキ止め方法は、ずれ防止のためストッパーを使ったとしても、ウキ止めには松葉とウレタンチューブを採用したほうが、表面張力の影響を受けにくい。
具体例として、ウレタン製のウキゴムを使用すると、振り込んで道糸を沈めても、下部に糸を通す輪の部分が表面張力で沈まないでいるのが観察できる。
BとCの違いは、ウキ止め糸2箇所止めと1点止めの違いである。これについては、大きな違いは見られなかった。確実性、耐久性という点では2点止めのほうが有利であるが、わずかな違いにもこだわるのであれば、1点止めのほうが、より表面張力の影響を受けにくいと思われる。
5.同一作者によるウキ使用の勧め
本誌2004年10月号にて、中澤 岳氏が「トータルバランスはウキが決め手」という記事を書かれている。非常に興味深い記事で、今も何度も読み返している。その中で、「ウキはトータルバランスの支点」、「眼鏡に似ているウキの選び方」という点を指摘されている。
「ウキはトータルバランスの支点」というのは、「ウキが仕掛けにおけるバランスの支点になっていること」、「眼鏡に似ているウキの選び方」では、「計測基準となるウキを変えては正確な判断ができないのは当然」、「釣り方別に『専用ウキ』があるのは、眼鏡でいう『度数』を指している訳だが、製品によって考え方に大きな差がある。安定した『視界』を維持していることは総重量制において絶対有利となる。」と述べられている。
ウキ製作者は自分の好みや考え方、回りの方々のアドバイス、プロの方はアドバイザーの方々の意見を取り入れ、釣り方別に『専用ウキ』を製作されている。しかしながら、第6回でも述べたように、「ウキはウキ製作者の技法や技量によって大きく異なる」ものとなる。また、ヘラウキは、孔雀の羽根やカヤという天然素材で作られていることもあり、これらの理由から、統一規格というものは存在しない。例えオモリ負荷量が同じであったとしても、異なる作者によって製作されたウキは、当然の異なる情報を発信する。
具体例で言えば、見た目よりオモリを背負うAという作者のウキで釣っていて、仕掛けトラブルにより、見た目よりオモリを背負わないBという作者のウキに交換したとした場合、ウキの大きさは同じでも、トータルバランスの支点は全く異なってしまい、ハリスの長さ、エサの比重等、全て変更しなければならないという状況に陥ってしまう。
こういった意味からも、自分がよいとおもったウキ製作者のウキを徹底して揃えるほうが、統一規格のない「ヘラウキ」においては、有利になると考える。
もちろん、自分にあったウキを自作するのが、一番であることは言うまでもない。
次回は、「水の表面張力」に焦点をあてた4回目、今回の理論の核心である「水の表面張力を逆利用した水深の測定」について、解説を行っていきたい。
以上
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