1.前書き
前回は、「第1回 各部パーツの比重について」を前提とし、「足の長さ、素材の違いがヘラウキに与える影響について」、実験を交えながら解説してきた。
今回は、「各パーツのバランスの違い、トップの素材の違いがヘラウキに与える影響について」、実験を交えながら解説していきたい。
2.各パーツのバランスの違いから生ずるヘラウキの立ち上がりに与える影響について
以下の画像をご覧いただきたい。前提条件は、以下のとおり。
ボディの仕様がまったく同じウキにトップの長さのみが異なるウキを浮かべ、ウキの立ち上がりの違いを調べてみる。
ヘラウキの仕様
ボディ:バルサ材にウレタンチューブを通したもの、トップと足が一体になったグラスソリッドを付け替えることにより、同一のオモリ負荷量でウキの立ち上がりの違いを検証することができます。
ボディ:バルサ材50mm、ウレタン止め上下5mm、合計60mm
トップ・足:グラスソリッド1.0mm
@足50mm、トップ145mm、でセット
A足90mm、トップ105mm、でセット
B足125mm、トップ70mm、でセット
参考:オモリ負荷量:0.53g
写真@
写真A
写真B
写真C
写真D
写真E
写真F
写真G
ヘラウキの立ち上がりはテコの原理で考えることができる。そして、その立ち上がりは表面張力に大きな影響を受ける。
その原理および影響を及ぼす要因については、前回「足の長さの違いがヘラウキの立ちに与える影響について」で述べてきた。
今回は、トップの長さ、足の長さといった各パーツのバランスの違いから生ずるヘラウキの立ちの違いについて、もう少し深く考察してみたい。
上記の画像から、以下の点がご理解できると思う。
試験片@足50mm、トップ145mmは、立ち上がりが一番遅い。→てこの原理
試験片@足50mm、トップ145mmは、トップのある点を支点にして、立ち上がる。
試験片A足90mm、トップ105mmは、ほぼトップとボディの付け根で立ち上がる。
試験片B足125mm、トップ70mmは、ボディをだして立ち上がり、かつ斜め立ちする。
試験片@、A、B共通に言えるのは、空気中で横にして得たバランスと実際に水中で立ち上がる支点は明確に異なるということである。
試験片@、A、B共通に言えるのは、なじみ終わりの時間はほぼ同じだということ。→オモリ負荷量が同じであるため。
試験片@、A、Bで立ち上がりが異なりながら、なじみ終わりの時間がほぼ同じであるということは、オモリがどの位置でウキが立ち上がるかということ。→てこの原理
上記より、ウキの足の長さ、トップの長さのバランスの違いがウキの立ち上がりに大きく影響することが、ご理解できると思う。
また、足を極端に長くすると、ボディをだしてウキが立ち上がるため、ボディアタリになってしまう。釣り人がよく言う、トップとボディの付け根で立ち上がるウキとは、やはり、ボディ、トップ、足の長さ、太さといった各パーツがバランスよく構成されることが必要と言える。
エサを打ち込む。一呼吸おいて、ウキが立ち上がる。さわりを伴いながらウキが馴染む。
この一呼吸の感覚、ウキが立ち上がる位置、さわりを伴いながらウキが馴染む速度という点において、これがベストだという感覚は釣り人によって異なると考えている。
多くの方は、「トップとボディの付け根で立ち上がり、さわりを伴いながらゆっくりとウキが馴染むのがいい。」と言われると思うが、試験片Bのようなスタイルのウキで、ウキが立った直後のアタリで回転の速い釣りを好む方もおられるであろうし、また、底釣りウキにみられるような、ウキが立ち上がるまでの間にタバコに火をつけることができるようなタイプを好む方もおられると思う。
私がウキ作りをお奨めするのは、自分の好みの釣りスタイルにあった、自分だけのウキを作れることだと考えている。
なお、この実験結果は、へら鮒がいない状態であり、かつ止水なので、実釣の場合とは異なることもある。
2.トップの素材の違いがヘラウキに与える影響について
釣り人の同士会話で、よく、「このウキはパイプトップだから、よくエサの荷を背負う。」というようなことをよく耳にする。では、トップの素材の違いが、ヘラウキにどのような影響を与えるのであろうか。
(1)ウキのなじみ幅の違い比較
以下の画像をご覧いただきたい。前提条件は、以下のとおり。
ボディの仕様がまったく同じウキにトップの素材のみが異なるウキを浮かべ、ウキのなじみ幅の違いを調べてみる。
ヘラウキの仕様
トップの素材を除く仕様は全く同じ。
ボディ:孔雀の羽根5.8mm径(塗装前)、100mm
トップ:グラスムクムク1.4mm(ノンテーパー)、パールトップ1.4mm(ノンテーパー)
足:竹製:2.0mm→1.2mm(塗装前)
参考@:オモリ荷重@パールトップ:1.69g、Aグラスソリッド:1.28g
参考A:ウキ下からオモリまで、約20cm→浴槽にて実験
上記のウキにそれぞれ、下記のエサにみたてた消しゴムをぶらさげてみる。
左側:グラスソリッドトップ、右側:パールトップ
写真@:エサ落ち
写真A:なじみ
上記各2枚の写真から、同容積の@、Aはほぼ同じナジミ幅を示す。
つまり、トップの素材、グラスソリッドかパールか、パイプかムクといった素材に関係なく、同一容積であれば、同じナジミ幅を示すことがご理解できると思う。
これは、「ウキへの荷重に対する変化量は、水面上に出たトップの容積によって決まり、水中のボディ形態、浮力、材質とは無関係である。」という「アルキメデスの浮力の原理」に合致する。
(2)トップの復元力
以下の画像をご欄いただきたい。前提条件は以下のとおり。
ウキは上記と同じものを使用している。トップ先端まで、水中に押し込み、はなしてみる。
左側:グラスソリッドトップ、右側:パールトップ
写真@
写真A
写真B
写真C
写真D
写真E
写真F
@写真左のグラスソリッドのウキは、水中に押し込むと、エサ落ちより2節下、つまり7節目のオレンジが出た後、エサ落ちの5節赤まで戻って静止する。
A写真右のパールトップ(パイプ)のウキは、水中に押し込むと、エサ落ちより4節下、つまり9節目の赤が出た後、エサ落ちより1節沈んだ4節黄緑まで戻り、再度エサ落ちの5節赤まで戻って静止する。
また、写真ではわかりにくいのですが、@写真左のグラスソリッドのウキは、水中に押し込むとゆっくりと戻ってきますが、A写真右のパールトップのウキは早く戻ってくるのがわかる。
この戻る速度、およびなじむ速度の違い、つまりトップの素材の差は、「復元力の違い」だと考えている。
具体的には、グラスソリッドは「第1回 各部パーツの比重について」でみたとおり、比重が1.8で水よりも重いため、ボディの浮力に依存して、水中のオモリ+針の重さとバランスしている。
従って、わずかの力(アタリやサワリ)で動くが、復元力が弱いため、モゾーとしか表現しない。
これに対し、パールトップ(パイプ)は、中に空気が入っており、水よりも軽いため、ボディの浮力+トップの浮力で、水中のオモリ+針の重さとバランスしている。
従って、わずかの力(アタリやサワリ)では、その復元力により、吸収されてしまう可能性があるが、その復元力ゆえに、シャープにツンとしたアタリを表現してくれる。
(3)ウキの入り
夏場、魚が湧いてしまい、ウキが入っていかないことは、多くの方が経験していると思う。
このような場合、トップにグラスソリッド製のムクトップを使ったものを使うとスムーズになじみ込ませることができる。
これは、まさにトップの比重を利用したものである。
お風呂で、洗面器を逆さにして、空気が入ったまま沈めようとすると、沈めるのにかなりの力が必要となる。しかし、底が抜けている洗面器であれば、簡単に沈めることができる。
つまり、空気が入った洗面器はパイプトップで、底が抜けている洗面器はムクトップに例えることができる。
こういった一手も、トップの素材の特性を理解すれば、応用できるのではないだろうか。
次回は、「トップの径の違いがヘラウキに与える影響とトップを見る目の錯覚について」、解説していきたい。
以上
Copyright (C) Studio Jinshin